そっと1秒耳を澄ませば、別に丁寧に暮らさなくてもいいんだ

そっと1秒耳を澄ませば、別に丁寧に暮らさなくてもいいんだ

COLUMN

丁寧な暮らしに憧れる。


素材本来の味を生かした調理。季節の食べ物を取り入れる。色とりどりな料理が食卓を囲む。器も調理器具も安物ではなくて職人が一つ一つ丁寧に作り上げた逸品。日用品も決してドラッグストアに売っているような安い洗剤とかじゃなくて、なるべく環境に優しい製品を選んだりして。

余裕があるからこそできる丁寧な暮らし

一人暮らしを始めたての頃、仕事にもまだ慣れていなくて毎日忙しかった。自炊する元気がなくて毎日朝昼は菓子パン、夜は適当にチェーン店の牛丼屋で飯をかきこみ食事を済ませていた。


食事、というよりかまるで機械に燃料を注いでいるようだった。一抹の虚しさを常に感じながら、それでも生きるためには食べなければならない。


確かに食欲は満たせるのだけれど、何かが満たされない気がした。


だからこそ丁寧な暮らしに憧れた。

ちょっとずつ生活に余裕が出てきたので少しいい調味料を買ったり、奮発してしっかりした調理器具を揃えたり。そうやってちょっとずつ、丁寧な暮らしに近づいている気がした。なんだか嬉しくなってきた。


自炊をするとなんだかなんでもおいしいと思える。なんてことない野菜炒めも、自作したドレッシングをかけたサラダも、とても美味しく感じる。


そう、料理はちょっとした一手間で格段においしくなる。例えば、魚を調理するときにお湯をかけて湯引きをしたり、事前に肉に下味をつけておいて1日寝かせたり、食材の面取りをしたり、だしをいちから自分でとってみたり・・・

そういう一手間で見違えるように料理がおいしくなるのだ。おいしくなる・・・のだけど


そのちょっとした一手間がどうしても圧倒的な手間に感じしてしまう。
果たして毎日だしを取っていられるか。毎回こんなこと、こんな・・・

そもそも丁寧な暮らしなんて余裕がなければできない。時間的、金銭的、精神的な余裕。余裕があるからこそ暮らしに手間をかけられるのである。


だから、ときにその理想的な暮らしが、「丁寧」への憧憬が重荷になってしまうことがある。

丁寧な暮らしを否定しないけど、必ずしもあのような生活を送らなければいけないというわけでもない。
いやきっと丁寧な暮らしに正解なんてない。だったら自分が思う、自分ができる範囲で丁寧に暮らせばいいんじゃないか。


すべての家事を丁寧にするのは大変だ。だからどこか一部だけでも丁寧にしたい。いや、別に家事に限定しなくてもいいんだ。日常で行う行為ならなんでもいいじゃないか。

だったら、好きな曲を聴くというのはどうだろうか。

忙しい現代の生活で純粋に音楽を聴くことってすっかりしなくなっていないか?例えば通勤・通学中、誰かとの待ち合わせの間、カフェに入って周りの雑音を消すために、作業のBGMとして・・・

今や音楽は「聴く」ものではなく「流す」ものになってしまっている。

思い出して欲しい。地元のさびれたレコード屋で新しく買ったCD。いったいどんな音楽なんだろうとワクワクしながらビニールを開け、CDコンポにセットをして再生ボタンを押す。そこから流れだす音楽は想像を超えたサウンドだったり、想像していたものと違っていたり、全然自分の好みじゃなかったり・・・さまざまだ。

それでも聴き続ける。最初はそんなにいいと思わなかったけど聴いていくうちにどんどん好きになっていったりして。そう、音楽を聴くたびに一喜一憂があった。

ベッドの上に転がり歌詞カードを眺めながら音楽を聴く。書いてある歌詞に感動し勇気づけられたり、ときに自分なりに意味を考えたり。クレジットのスペシャルサンクスをくまなく読んでは自分の知っているバンドをみつけてなんだか嬉しくなったり。メンバー写真を見て、こんなふうにカッコよくなりたい、可愛くなりたいと想いを馳せていたあの頃を・・・

音楽を純粋に聴く」という行為をすっかりしなくなってのではないか。

丁寧に音楽を聴く、これだって立派な丁寧な暮らしじゃないか。
だったら丁寧に音楽を聴こう。これが今できる自分なりの「丁寧な暮らし」だ。

呼吸を止めて1秒 音楽に耳を傾ける

とはいえ現代社会はやっぱり忙しい。でも毎日忙しくても1曲くらいなら、聴くことに集中できるのではないか。
1曲60分以上ある SLEEPの「DOPESMOKER」を聴くのは大変かもしれない。

1曲60分オーバー。正気の沙汰とは思えないSLEEPの伝説的名曲


けど、Napalm Deathの「You Suffer」ならどうだ!?1秒だ。たったの1秒だ。

試しにYou Sufferを丁寧に聴いてみよう。

Napalm Deathの1stアルバム「SCUM」グラインドコアはここから始まった・・・

「You Suffer But Why?」

なぜお前は苦しんでいるのか。この曲はそう問いかけてくる。

別に苦しんでないし・・・そう思ったあなたはきっと素敵な生活を送れているはずだ。その生活を維持しよう。

今とても苦しんでいるそこのあなた。いったい何がそんなにも自分を苦しませているのか。


将来に対する漠然とした不安。このままでいいのかなって急に不安になったり。毎日楽しく過ごせているはずだったのに、なぜか残る心のモヤモヤ・・・

この曲はそんな自分の心のあり様に気づかせてくれる、たったの1秒で。

忙しくてつらいとき、漠然とした不安に押し潰されそうなとき、もうなにがなんだかわからなくなってしまったとき。そんな時にそっと1秒、丁寧に音楽を聴いてみてはどうだろうか。もちろん別にNapalm Deathじゃなくていい。自分の好きな曲を聴くんだ。Napalm Deathは、いや、音楽はきっとあなたを裏切らないから。

生きることはすばらしい。けど、それと同時に辛いこともたくさん経験しなければならない。

つらくなったら、深呼吸をして好きな音楽を心の底から聴く。きっとそれが丁寧な暮らし。いや、きっとそれが重たい暮らし、なのかもしれない。