4月某日。
桜が散り、葉桜へと移ろい始めた頃。
これまで何人もの方にインタビューへご協力いただいた「歩飲」。
歩くに飲むと書いて、歩飲(ほいん)と読む、最高に健全で不健全なカルチャーだ。
一人でそっと楽しむのもいいが、誰かと一緒にやるのもまた格別だ。
だったらハードコアのシンガロングのように、歩飲もALONG(アロング)してみようじゃないか。
──そんな思いつきから生まれた企画「歩飲ALONG」。
目的も持たず、ただただ歩いて、ただただ飲む。そんな時間を二人で過ごしてみることにした。
記念すべき初回のゲストは、アパレルブランド「HYPNOTIC VOID.」のデザイナー・TOSHIKI KUMAZAWA氏。
彼とは以前、歩飲のインタビューにも協力してもらっている。

歩飲 - HYPNOTIC VOID.(TOSHIKI KUMAZAWA)の場合 -
事前に何度か打ち合わせを重ね、今回のルールを決めた。
──沿線を舞台に、サイコロを振り、出た目の数だけ駅を進み、そこで歩飲する。
街ブラのような、気まぐれのような遊びだ。
初回の舞台に選んだのは、互いの活動エリアの中間地点、ほとんど縁のなかった南武線。
そして始発駅・立川に集合した。
近くの喫茶店に入り、入念かつ繊細で緻密な打ち合わせを済ませ、いよいよサイコロを振る。
出た目は──
9
というわけで、立川から9駅目、矢野口駅で下車することに。
矢野口駅は東京都稲城市に位置し、北には多摩川、中央には三沢川が流れる、静かな住宅地だ。
見知らぬ町に降り立つ高揚感と、少しの不安。
それでは、歩飲ALONGの記念すべき第一歩をお届けしよう。
写真・インタビュー:外山鉛
外山鉛(以下「鉛」)
オッケーです。じゃあやりましょう。
TOSHIKI KUMAZAWA(以下「クマ」)
つか、何のスポットもないな
鉛
ない。
クマ
なんもない
──とりあえず歩く
クマ
ちょっと小田急感があって落ち着きますね。終電逃して4つ前くらいの駅から歩いて帰りタクシー捕まらずそのまま歩いてみたいな(笑)
鉛
なるほど。
この街の第一印象
宝焼酎的だから7パーぐらいかなぁ。
クマ
なんか僕、なんとなくね、この街ちょっとアルコール度数は高そうだなって。
鉛
あ、ほんとですか!?
クマ
なんか優しそう、そういう(お酒で粗相をする)ことに。
鉛
へえ、なるほどな。ではこの駅の第一印象は……あ、そっか。小田急線っぽいから割と親近感がある。
クマ
親近感あるっすね。
鉛
そしてアルコール度数が高そうな駅だと。いいっすね。駅をアルコール度数で示すの。じゃあ何パーぐらいですか。
クマ
宝焼酎的だから7パーぐらいかなぁ。
鉛
7パーぐらい!!そうか、7パーを許容してくれる街かもしれない。
矢野口駅のアルコール度数:7パーセント
クマ
こののどかな感じいいっすね。なんか、「友達が家買ったんだよ、来てよ」って言っわれて着く駅ですよね。
鉛
あー確かに。家買うとしたらここら辺なのかなっていう。
出会ったきっかけ
鉛
うちらはどういうきっかけで知り合ったのかを話していきましょうか。
クマ
結構出会い方おしゃれっすよね。ポップアップで出会ってますよね。
鉛
原宿、表参道、渋谷の中間みたいなとこにあるお店でですよね。
クマ
ちょうど鉛さんがくつ下作ってあと音源とか売るポップアップで丹下くん(PROM)が繋いでくれて。当時彼よく色々作ってて、僕はたまたま呼ばれてはじめましてみたいな。
鉛
そうですね。YOOWN STOREでのポップアップがきっかけで知り合いましたね。
クマ
で、お互いライブハウス現場では会ってないけど、割と近しいとこにいたなみたいな。
鉛
たしかに。
クマ
で、同い年だし。
鉛
そう。それは後々発覚したけど。そのあと1回撮影を挟んでますよね。
俺がそのHYPNOTIC VOID.の撮影をなぜかすることになり、モデルやってくれた子と一緒にその後飲んでみたいな、そういう流れでしたよね。
クマ
そのあと東高円寺であったライブでも会って、それで今日の企画やりませんかって声かけてくれたんですよね。
鉛
そう、そういう流れで実現しましたね。
クマ
早速矢野口から離れようとしてますけど……(笑)
鉛
焼き鳥屋多い。やってんのこれ?
クマ
こっちでもなんかちょっと商店街っぽいですね、かつて。
鉛
かつてね。
鉛
全然商店街じゃなかった。
クマ
いや、なんか和菓子屋さんも。
鉛
あ、多少名残りが。
クマ
たぶん当時矢野口の酔客たちが大暴れしたんでしょうね。
鉛
メインストリートで大暴れ。地元のすごい奥の方の商店街とか、今はシャッター通りですけど、それこそ昔はヤクザが騒いでとかっていう話を聞きましたね。昔は栄えてたっていう。シャッター通りを見ると切ない気持ちになりますね。
クマ
あ、梨園がある。たぶんね、ここの豪農さんの家っぽいですね。なんかおばちゃんちこんな感じの雰囲気だったなぁ。
クマ
ここきっとあれですね。
鉛
元古着屋かなぁ。
クマ
たぶんこの梨園の長男か次男なんかが土地余ってるからってやらしてもらったのか。
鉛
なんか映画?のステッカー貼ってありますね。
クマ
あ、違う。こっちの和菓子屋のボンボンがやらしてもらったのかな。
鉛
なるほど(笑)。あれは観葉植物の店ですか。
クマ
新しそう。看板のセンスが今っぽい。
鉛
意外とカルチャーしてる街なのかもしれない。
クマ
23区でブイブイいわせたやつが地元帰って仕事をやりつつ空いた土地で始めましたみたいなね。
鉛
なるほど、東京都内でもそういうムーブメントというか、あるんですねやっぱり。
クマ
地元でちょっとカルチャー広めようじゃないかみたいな。
鉛
なるほどね。原宿で店出しててそれで。
クマ
そうそうそう。
──あまりの何もなさに行く宛を見失う
鉛
もうなんもない。多摩川行きますか。
鉛
でも東京都民は歩く方ですよね。
クマ
そう、歩いて3、40分とかまあ歩きますよね。そっか、逆に地方の方が歩かないか。
鉛
そうそう。南海キャンディーズの山里の不毛な議論ってラジオで以前、全然都民だったら20分くらい歩くじゃないですか。けど、地方行った時に気になっていたお店があって徒歩20分ぐらいかけてその店着いて、店員に歩いて来ましたって言ったらすごい驚かれて。やっぱ地方は車だもんなって思いましたね。徒歩20分だったら車で5分とかだもんな。
クマ
なるほどたしかに。都内近郊に住んでるんでわかんなかったんですけど、酒飲む時って都内在住だと居酒屋行って歩いてあるじゃないですか。
鉛
はいはい
クマ
地方ってやっぱ……
鉛
代行っすよ。そう、だから都内で代行ってまず見ないよねっていう話を友達ともしてて。でもこの間その友達が足立区あたりで代行を見つけたって話を聞いて。都内に(代行使う人)いるんだと思って。
田舎は距離感マジでバグってるっていうか。看板にもこの先直進5キロとか普通に書いてあるから、やっぱ車社会なんだなって。
クマ
やっぱり地方って家で飲むんですかね。みんなで集まって。
鉛
どうなんだろうな。地元いた時ほんと酒飲まなかったからな。
クマ
ご家族も飲まない?
鉛
父親がめっちゃ飲んでて。もう酒もタバコもやって、俺が小学生ぐらいの時1回不整脈で倒れて。で、一昨年の正月かな。元旦っすよ。俺が帰ったらなんか脳梗塞になって、そのあと能登の地震あるじゃないですか。新潟震度5弱。元日からなんかめちゃくちゃ大変でしたね。
クマ
それは大変でしたね。
鉛
やっぱ外山家の男はダメなんでしょうね。自分もそのダメな血を継いでるわけで。
クマ
いやいや、そんなことないんじゃない(笑)?
鉛
父親の弟、叔父に当たる人が去年ぐらい亡くなって。ほんとヘビースモーカーで、肺に穴が開いても結局タバコやめずで肺の病気が原因で亡くなるっていう。自業自得だよね、みたいな。自分のばあちゃんのお葬式の時に会ったのが最後で。そん時もほんと顔真っ黒で。日焼けとかじゃなくて明らかに内臓か何かやられてる感じの顔の黒さで。それでやっぱりタバコ吸ってて。叔父と話したら、今肺に穴あいてて痛み止め飲んでごまかしてるけど、それでもタバコやめないって言ってて。じゃあもう何言っても無理だなって。
トイレスポット大事っすね。
クマ
……歩飲の話しますか。
鉛
そうですね。
クマ
僕はやっぱ移動中に飲むのが都合が良かったんで、家庭の事情的に。
鉛
はいはいはい。
クマ
歩飲っていうのは別に最初知らなかったんですけど。普通に日常的にやってて。で、丹下くん。
鉛
はい、共通の友達。さっき話題にでたポップアップイベントで繋げてくれた人。
クマ
そう、丹下くんがInstagramのストーリーズで歩飲って単語を使ってたんで。よく考えたなぁって。ただ歩いて飲んでるだけのこと。
鉛
確かにね。
クマ
命名すると発明みたいで。パリっ子さんのチェアリングじゃないですけど、なんかそんなふうに思えて。で、そっからその歩飲を積極的にブログで書いてる鉛さんって人を知ってすっげえ変なことやってんなあと。
クマ
あ、多摩川に着きました。きれい。
鉛
わ、すごい。
クマ
そうだ、歩飲で大事なことあるんすけど。
鉛
お、なんでしょう。
クマ
トイレスポット大事っすね。
鉛
あーなるほど。でもここ川なんで、し放題(笑)。いや、確かにトイレスポットの把握は大事ですね。
クマ
普通にお散歩として気持ちいい。
鉛
確かに。
クマ
お弁当でも買ってね、座飲(座ってお酒を飲むこと)したいぐらい。
鉛
そうですね。飯食ってもよかった。
クマ
若干、ちょっとね、この膀胱からお小水の気配がしてきたから、ちょっと(橋の)向こう渡ってお手洗い済ませたい。
鉛
あーそれかコンビニ戻るとかしますか?
クマ
いやいや、直進で。
鉛
直進しますか。
クマ
多分歩飲ってむしろ飲む場所がない時こそいいんじゃないですかね。
鉛
そうですね。
クマ
ぶっちゃけ多分飲むとこほんとにいっぱいあったらそんなしてない気がする。
鉛
それは確かに。でも自分はそもそも散歩が好きだからっていうのもあって、飲む飲まないに限らず、散歩がしたいからしてるついでにっていう感じでもあるっすね。
クマ
久しぶりですね、ほんとに何にも知らない場所をただ歩くって。結構贅沢な遊びな気がしますけどね。
鉛
こういうのどかな感じが昔は苦手でしたね。なんか地元にいた頃の土曜日を思い出してしまって。
クマ
あーあーなるほど。
鉛
なんかほんとに何もないしで、自分もバンドできてなくて、何もできない無力さとこの平和な何もなさでほんと辛くて、そういうの思い出しましたね。
クマ
やっぱりああいう音楽(ドゥーム)はなんか都会の喧騒で生まれてくるんですか?
鉛
いや、普通にメンバーが集まんないから(笑)。新潟でドゥームバンドなんて組めないっすよ。
今はいるっぽいっすけど。
クマ
パンクは若干いますよね。
鉛
パンクスは世界中にいる。それこそ地元の知り合いアナーコパンクやってたし。
新潟でアナーコパンクやるってすごいっすよ。
クマ
新潟はよく呼んでもらってましたよ、PISTOL JOKE(新潟のノイズコアバンド)とかによく呼んでもらってました(TOSHIKI KUMAZAWA氏はかつてDropendというクラストバンドをやっていた)。
鉛
へー。そんな繋がりがあったんですね。ほんとパンクスはどこに行ってもいるんすよね。あとパンクスって背高くないですか?
クマ
いや、逆に低くないですか?僕も低いですし。
鉛
PISTOL JOKEのメンバーみんなデカくないですか?
クマ
たしかにみんなデカい。
鉛
割と新潟のパンクスみんな背高いんですよね。
クマ
土地柄なんですかね?
鉛
土地柄なのかもしれない。
クマ
パンクスはちっちゃいイメージですけどね。
クマ
話ちょっと戻りますけど、地元の時はそんな酒飲んでなかったんでしたっけ?
鉛
全然飲んでないっすね。ほんとに飲まなかった。
飲みに行くとかもほぼそういうライブの打ち上げとかしかなくて。
クマ
たまに地元帰るじゃないですか?そういう時もやっぱ飲み行かないんですか?
鉛
歩飲してましたね(笑)、去年末は。まず近所に飲み屋がないし、お正月だからそもそもやってないみたいな。
鉛
そしてトイレなくないすか。
クマ
いや、ちょっとこっちの方行ってみましょうか。最悪日産で借りるっす。もう普通にトイレいきたい。
鉛
同じくなんですよ。
クマ
ちょっと日産にトイレ借りられるか行って来ます。意外と借りられる可能性あるんで。
鉛
いや、俺はやめときます。
──トイレを借りられるか聞きに行く
クマ
オッケーでした。
鉛
すごい。
鉛
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──後編へつづく